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再度、大きなため息を吐くと、女将は若女将へと向き直る。
「いいかい。どうやらあんたもきちんとわかっていないようだが、料理なんてもんはコンビニにある食品やら調味料だけでも事足りるんだ。野菜も肉も米も、コンビニ内の一角に置かれているような時代だからね」
「そ、そうなんですか……」
「コンビニなんて楽にいろいろ手に入る場所ができちまったせいで地元産業は迷惑してるけどね。まぁ、名前の通り調味料やら急ごしらえには便利だから文句ばっか言ってもられないよ。一円にもならない文句より、お客様の心を楽しませる言葉を磨くほうが人をいい気持ちにさせてやれるからね」
女将は、時計を確認すると懐からがま口財布を取り出した。
「ねぇ、若女将。あんた、休憩を取っていいからコンビニでスイーツを買ってきてくれないかい?」
「でも、うちには自慢の水菓子が……」
「馬鹿だねぇ。コンビニのスイーツだってあたしらほどじゃないにしても十分なくらい高品質だ。それこそ、コンビニ店員がべらべらしゃべってお客の心をかきたてりゃまた違うんだろうけど、あいつらが無口で本当によかったよ」
女将が最も注力している小さな秘密を知った若女将は、少し釈然としないまま言われた通りにコンビニを目指す。胸の内で、料理を感激するほど美味しそうだと感じさせる女将の手腕と、その女将にべた褒めされていたコンビニを不可思議に思いながら。
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