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「人生とは、与えられた時間をただ消費するだけの作業だ」
神原が、眉間に2本の指を当て、決まり事のように言ってきたのは、去年の秋だったか。
俺達はよく、コンビニでその作業に没頭する。
「神原、当たりが出るまで、つくね食わねぇ?」
「やだよ。オレ、肉嫌いだもん。そんな事より、当たりが出るまでガムを食べつづけようじゃん」
こうやってまた、時間を確実に、ゆるりと消費していく。
結局、俺がつくねを6本食べ終わるまでに、神原はガムを十三個口に放りこんだ。子供用の飲み薬のような、科学的な甘い匂いが辺りに広がる。
ガムが、口の中で一つのまとまりになっていく様子を事細かに説明していた、神原の顔色が変わる。曰く、「ガムが生を得て暴れだした」らしい。
「コンビニって、人生に似ているようだ」
そう言って、ガムを慌てて吐き出し、唾を飲み込んだ後、一息ついてから続ける。
「限りあるものを消費して、あっためて、捨てて、助けられて、依存して」
「新刊置いてなかったー」
スウェットを着た少女が、千円を握りしめたままアイドリング中の軽自動車に乗り込む。
ビニール袋にカサカサと詰められた、ガムの包み紙を見ながら、俺は神原の言葉に連ねる。
「期待通りにならなくて、それでもなかなかやめられない?」
冷たい風が通り過ぎた。俺は身震いしてダッフルコートの襟を立たす。
まだ蝉の声が忙しい頃「フライングが過ぎるでしょう」と、神原が指摘したおでんが、すっかりなじむ季節がやってきたのだな。
「でも、俺は好きだよ。コンビニ」
「オレも、だけどもさ。最近だよ?ホント。こう思えるようになったのは。ねー」
神原は、かばんに付けたくまのキーホルダーに頬ずりする。
「……神原。おでん、食わない?」
「やだよ。オレ、猫舌だもん」
「冷えたら食えるっしょ?」
「君……天才かもしれんぞ」
コンビニは、俺達が居なくなった後も、世界中のありとあらゆる場所と時間に、存在を続ける。
俺達だって、コンビニがなくったって、存在を続けられる。
けれども、やっぱり、あった方が良いに決まっている。
「大根、マジうまい」
「大根、ヤバうまい」
時にはこうやって、同じ時間と、同じ感動を得られたりするのだから。
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