プロローグ

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プロローグ

 それは奇妙な感覚だった。  昼下がりの駅前のカフェテラス。その窓際のテーブルで、七瀬彩都(ななせあやと)は初対面のその青年と対峙していた。本来なら無理をして会わなくてもいい青年だ。なのに、彼の姿を見た瞬間から彩都の心になにか懐かしいような、くすぐったいような、そんな解析できない感情が先ほどから湧き出していて、それが奇妙な感覚の正体だ。 「あのぉ、七瀬先生、どうかしましたか」  彼の隣に座る島田という、研究室に出入りを許している薬品会社の営業マンが、彩都の顔を覗き込むように問いかけた。島田は顔に初めからプリントされたようなにやけた笑顔で、彩都の様子を窺っている。 「いえ……、なんでもありません」  この島田に「個人的なことなんですが」と頼み込まれ、彩都は残暑の厳しい中をここまで足を運んだ。島田の頼みは、自分の遠縁の青年を彩都の研究室で雇ってもらえないか、というもの。一度ぜひ顔合わせをと言われ、彩都は久しぶりに山奥の研究室から出てきたのだ。たいして興味もないはずの人物を目の前にしているというのに、彩都の喉は緊張でカラカラで、その渇きを抑えるためにストローから吸い上げるアイスカフェラテは、彼に会って五分と経っていないのにもう半分以上減っていた。  渡された書類に視線を落とす。しかし彩都の瞳は羅列されている文字を追いかけるのをすぐに止め、また目の前に座る青年の顔に釘付けになった。  しばらくの沈黙。それに我慢ができなくなった島田が彩都に下手で聞いてくる。 「えーっと、どうでしょう? コイツの経歴。先生のご迷惑にはならないと思いますが」 「……迷惑どころか凄すぎて逆に僕が申し訳無いよ。本当にうちの研究室なんかで良いんですか?」  彩都は青年に聞いたのに、彼が口を開く前に「そりゃあもう」と島田が割り込んだ。
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