プロローグ

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 島田は大袈裟に喜ぶと隣の青年の肩をひとつ叩いて「お帰りのタクシーを呼びますね」と席を立った。青年と取り残され、彩都は治まらない体の奥の疼きから気を逸らそうと、氷の溶けたアイスカフェラテをすべて飲み干した。そんな彩都の行動を相変わらず静かに彼は眺めている。 (まるで観察されているみたいだ……)  居心地の悪さに席を立とうとしたとき、一瞬早く青年のほうが椅子から立ち上がり、テーブル越しに彩都に向かって右手を差し出した。 「感謝します、七瀬博士。来週からよろしくお願いします」  差し出された右手と彼の顔を交互に見つめる。なかなか握手に応じない彩都に彼はほんの少し顔を傾けると、無表情だった顔にわずかな笑みを浮かべた。 (――、あっ)  また体が微かに震えた。彩都が慌てて右手を出すと、青年の手のひらが彩都の右手を掴んだ。 (大きな手……)  温かく包まれた手の感触に、じんじんと右手が痺れた。彩都は島田が戻ってくるまで繋がれた手が離せなかった。 「先生、タクシー手配できました」  島田の声に彩都は魔法が解けたように意識を取り戻すと、動揺を隠して素早く手を引いた。そして、ひとつ息をついて喉を絞って冷静に言った。 「これからよろしく。神代稜弥(かみしろたかや)さん」
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