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「ねえ、どういうこと?」
教室に戻ってから、ずっと重い空気が漂っていた。
「しょうがないことなんだ。」
谷は、それしか言わなかった。
「なんで今まで何もいってくれなかったの?
谷はずっと前から知ってたんでしょ?」
渚が、谷に問いただす。
「先生は、知ってた上で、ずっと僕たちの前で何事もなかったように笑っていたんですか?」
冷静を装ったメガネの声が震える。
「これが、何度も何度も話し合いをした結果なんだ。この結果に納得してる奴なんて、1人もいないんだ。ただ、時代とお金が、俺らに味方してくれなかった。それだけなんだ。」
谷は、俯いた。
貯金すらない俺らに、到底お金のことなんて、口を出せるわけもなく、返す言葉が見つからなかった。
長い沈黙の後、
「帰ろう。」
渚は、それだけ言って、教室を出た。
それに続いて、クラスメイトは1人、また1人と帰っていった。
俺は、しばらくそこから動けずにいた。
入学当初から、谷を見てきて、こんな谷は初めてだった。
初めて見る弱々しい、谷先生。
「ごめんな。」
最後に残った俺に、谷は一言そう言った。
その四文字には、『帰りなさい』という言葉が隠されているような気がして、俺は教室を出た。
長い長い、高校生活最後の夏休み前の1日の出来事。
それは、今の俺らには重すぎて、とても抱えきれるものじゃなかった。
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