「結婚してください」「嫌です」

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「ハイじゃあこれ書いて」 婚姻届…じゃなかった、養子縁組届と俺の印鑑が出てきた。 「早いな。お前の書く所もう埋まってるし、出す気マンマンじゃねーか。っておい、今出したその箱、まさか指輪じゃないだろうな。カネどうしたんだよ、またネットで小金を稼いだのか」 何かの記念日には、こいつは何処からか金を出してきてプレゼントを寄越す。万年筆だったり鷲の重しだったり趣味が訳分からん。金がないから文房具なんだろうがな。よくパソコンでゴソゴソしてるから、その小金を貯めていたのだろう。 「そんなのいいから早く書いて。書き終わったら教えるから。夫婦のあいだには我慢も内緒もなしだもんな」 「そんなの当たり前だろ。ほら、出来たぞ」 我慢?内緒?お前が言うな、俺の方が我慢してるわ。 「やった。もう返さない」 奴はいそいそと鍵の掛かる引き出しにしまいやがった。大げさな。 「取らねーよ」 その台詞に奴はにっこり笑った。 「はい、じゃあ次、指出して」 俺は大人しく左手を出した。やはり小箱は指輪だった。ってちょっと待て! 「でっけー!なんだこの石。宝石か?んな訳ねーか、ガラスか。猫の目みたいな線が入ってる。珍しいなー。すげー綺麗。嬉しい。ありがと」 奴はニコニコしてた。いや、デレデレ?俺が喜んだことで、こいつが喜ぶことが嬉しい。 「じゃあお前にも」 俺も揃いの指輪をあいつの指に嵌めた。そして隣に座ってお互いの左手を揃えて眺めた。 「へへへ」 どちらともなく照れ笑いが出た。こっ恥ずかしいけど、幸せだ。
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