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ふわり。
夜中、ふと鼻を掠めた優しく懐かしい薫りに、目が覚めた。
何だか、胸が苦しくなるような夢を見ていた気がする。
見ていた夢の端を、掴もうとしたけれど、その片鱗ですら、掴めずに。
鼻を掠めた薫りは、俺の眠りだけを醒まして、何処かに消えてしまう。
ただ、嬉しいような、切ないような、そんな気持ちを俺の心に、残響として置いていった。
瞼をゆるりと持ち上げれば、窓から差し込む月明かりが、酷く眩しくて。
「………っ」
くらり、歪んだ視界に目を眇める。
「んぅ……」
直ぐ傍から聞こえてきた声に、自分の置かれている状況を脳がはっきりと思い出した。
はっとして、身動きを止める。
じっと止まっていれば、寝息だけが、部屋を支配して。
「……馬鹿璃桜」
すぅすぅと深い寝息を立て、隣で無防備に寝ている寝顔を見やる。
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