第一話 メロン王子

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 今年もJA主催のメロン品評会の季節がやってきた。  自慢のメロンを出品して、糖度をチェック後、十三以上の数値を出した甘みの強いものだけを農家の名前を伏せ、十人の審査員が試食して点数をつけていく。甘み、香り、舌触り、果汁、味のバランス等、一項目につき五点満点。審査員は公平を期するため、毎年品評会の当日、抽選で無差別に選ばれる。 「やぁ、聖一君。どうだい? 今年のメロンは」 「あ、吉井農園の。今年はかなり自信作ですよ。香りもいいし」 「へぇ、楽しみだね。うちも負けてないよ。そういえば、聖一君っていくつだっけ?」 「二十七です」 「若いのに、しっかり三好さんの跡を継いでるんだ立派だねぇ。羨ましいよ。うちのせがれは全然だよ。継ぐ気なんてないんやろうな。今日もデートやいうて行きよった」 「へぇ、良いですね。デート。羨ましいですよ」 「羨ましいって、聖一君だってモテるだろう。若いし。誠実そうで見た目だっていいし」 「いやいや、全然です。高校も農業のところだったし、そこからずっと家で修行の日々だったんで出会いなんて全然なくて」 「えー、もったいない。お見合いとかしないのかい? 最近流行ってるらしいよ? 農家のお見合いパーティーとか。意外と希望者がいるらしいんだよ。都会の娘が田舎に憧れてとか。どうだい? 聖一君も行ってみたら」 「お見合いパーティーですか。行ってみようかな」 「うんうん、聖一君ならきっと希望者殺到だよ。じゃあ、お互い頑張ろう」  吉井さんは、俺の肩をパンパンと叩いて行ってしまった。  しばらくして、また肩をポンと叩かれる。振り返ると、名波メロンの名波達也が自信満々な顔で立っていた。 「よう」
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