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軽トラは民家の横を通り過ぎ、ビニールハウスを通り過ぎ、畑を通り過ぎ、国道に出た。街の方へひた走る。左手にインター入口が見えてきた。
達也が左へウインカーを出す。
「インター乗るの?」
「ん? ここだよ」
「ここって……」
インターの入り口ではなく、軽トラは手前のラブホテルへ入っていく。
「おいおいおいおい!」
ツッコミを入れてる間にも、軽トラは薄暗い駐車場へ入ってしまう。呆気に取られる俺。達也は頭から駐車スペースへ軽トラを突っ込み、エンジンを止めた。
「やっぱり最初くらいは、キレイな部屋がいいだろ?」
「は? 何を言ってるの?」
「聖一はバージンだしな」
「バッ! はあああぁ?」
声がひっくり返る。達也はニッコリ微笑み、車を降りてしまった。
「さ、行くぞ。ここ、飯も美味いってクチコミに乗ってたし。なんでも好きなもん食っていいから」
「嫌だよ! 怖いよ! 行かないよ!」
俺は両手でガシッとシートベルトやハンドルを掴んだ。
「賭けに負けたら、俺の女になるって約束したろ?」
「冗談だろ! ってかいらないでしょっ! そも男だし!」
「はぁ? 何言ってんだよ。賭けに負けた時点でそんな泣き言は通用しないぞ。お前も男なら腹くくれよ」
達也が無表情で言った。
「男がそんな腹くくれるか。嫁が欲しいならお前もお見合いパーティー行けばいいだろ!」
「ウダウダうるせぇなぁ。賭けをチャラにして欲しいならそれなりの誠意を見せろよ。お前が約束を破ろうとしてんだから」
うう……。
とんでもない賭けをしてしまったもんだと盛大な後悔が重く伸し掛かる。俺はしぶしぶシートベルトを外し車を降りた。達也は項垂れてる俺の手を恋人みたいにギュッと握った。その手を見て「なんだよコレ」と更にゲンナリする。
「行くぞ」
キラキラしたドアがウィーンと開く。もう一個のドアもウィーンと開いた。
ラブホなんて入ったの初めてだ。
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