第一話 メロン王子

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 下校途中、中学生になった達也と道端でバッタリ会った。  全身黒ずくめの制服。  小学校の頃は毎日のように名波達也の後をくっついてまわっていた俺だったけど、達也が中学へ上がってしまってからは、後を追いたくても追えなくなった。学校が建っている場所も全然違うし、あっちは部活もある。  生活時間のがズレがあるから当たり前。  達也も近所の小学生を相手している場合じゃなかったんだろう。  町や家の近所で姿を目にすることもほとんどなくなり、たまに見かける時は同じ中学の制服を来た人間と一緒だった。可愛いお姉さんだったり、仲の良さそうな男友達だったり。  いずれにしても僕の知らない人達だ。  たっちゃんが手の届かない遠くへ行ってしまった。ううん。もう僕らのたっちゃんはいなくなってしまった。そんな気がして、声もかけなくなった。  中学に入学してもなにも変わらない。むしろ、僕にも新しい友達。新しい世界ができていた。  気付けば三年生の卒業式。  退場する卒業生の中に凄く背が高くなった達也がいた。僕の目の前を緊張した様子もなく歩いていく。ふと達也と目が合った。達也はおもむろに胸に挿していた造花の花を手に取ると、行進する列から一歩踏み出て、俺の頭へ造花をグサッと挿した。造花の茎の部分が地肌に突き刺さる。 「いたっ」  あまりの出来事にこっちはびっくり仰天だ。  意味が解らない。なんで刺したんだ?  頭を押さえ、信じられないって顔で達也を見ると、達也は言葉を発することもなく、懐かしい笑みをフッと見せて通り過ぎて行く。  足元には、髪から落ちた造花がポツンと転がっていた。
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