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「聖」
でも、違った。更に、もっと近づく距離。もう鼻先が触れ合いそう。
迫ってくる妙な圧は凄まじいほどで。ついに堪えられなくなった僕はフイと顔を窓の方へ向けた。握られた手を素早く引っ込める。
「外真っ暗だね。帰ろっかな。うん。お腹も空いたし」
視界の隅で、達也も同じように窓を見る。
「だな」
どんな表情をしているのかまでは見えなかった。
僕はそっけない挨拶だけを残し、達也の部屋を後にした。
あの時、達也はキスしようとしてたんだ。キスして「好きだ」と告白するつもりだったのかも。でも、俺が逃げたから、達也はその日以降、喧嘩を売ってきたり、かと思えば奢ってくれたり。そういう絡みはあったけど、妙な事はしなくなった。
俺がさせなかったんだ――。
本当は急にでも、今更でもない。達也の中ではずっとだったのか。
あり得ないと断固拒否していた心は折れそうではなく、もう既に折れていた。
ずっと思っててくれたのに。
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