第一話 メロン王子

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 彼は俺と二つ違いの二十九歳。近所に住んでいる事もあって、良く知った間柄だ。俺はひいひい爺さんの頃から代々続くメロン農家で、俺もメロン一筋で生きてきた。でも、達也は違う。確かに達也のおじいさんはメロン農家だ。でも、達也の親父さんはサラリーマン。というか、証券会社でバリバリに働いている。だから達也も、俺とは違って進学校へ進み大学も受験。てっきりと同じようにホワイトカラーを目指しているんだろう。と思いきや、受けた大学は農学部だった。バイオサイエンスだか、エッセンスだとかを学んだらしい。そして、達也は帰ってきたのだ。メロン農家に。  二十代で品評会に出てくるのは俺たち二人だけで、さっきの吉井さんもだけど、だいたいが親父世代だ。だから目立つんだけど、それだけじゃなく彼は見た目からして目立ってた。  日に焼けた肌、高身長に加え長い手足と逞しい体躯、精悍な顔つきで、笑うと歯がキラリと光る。白いタオルを頭に巻いてこんなに似合う男は他にいないんじゃないかっていう感じの、男臭い男。昔からモテモテで特定の彼女を作らないのはここら辺では有名な話だ。  JAのおばちゃんたちからは「たっちゃん」と呼ばれ親しまれている。 「とうとうこの日がやってきたな」  達也はニヤリと笑った。  今年の一月のことだ。同じ地域の農家が集まり新年会をした。年の始めの大事な集まり。もちろん俺も、達也も来ていた。俺たちはいつも、会えばところかまわずメロンについて熱く語り、競い合う。その日も、自分のメロンがどういいのか、どこにこだわってるのかと熱い議論を酌み交わしていた。  そして飲みすぎた結果、勢いのままに、俺たちは妙な賭けをした。
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