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ゆっくりと歩く足音とペンの音だけの静まり返った会場内に、俺の声が響いた。一斉にこっちに向けられる視線。俺は焦ってペコペコとお辞儀して首を竦めた。
達也が唇に指を当てる。
「しーっ」
俺は達也をキッと睨みつけ、口パクで「お前のせいだろ!」と文句を言った。なんなんだよ。真剣勝負って時に意味の解らん冗談なんかブッコんできて。何考えてんだ! まったく。
「お前は俺に勝ったらどうするつもり? まぁ、俺が勝つに決まってるけど」
達也はヒソヒソ声で煽ってくる。
「うるさいな。そんなの後でいいだろ。緊張感持てよ」
「賭けは続行でいいんだな? 今、やっぱり無しにしてくださいって言えば許してやってもいいんだぞ?」
ははん、読めたぞ。コイツ余裕あるぞって見せかけて実のところめちゃくちゃ不安なんじゃないのか? だから欲しくもないくせに無理難題な罰ゲームを俺に突きつけてきて、白旗上げさせようって魂胆なんだな。見え見えなんだよ。こすいヤツだ。
「勝つのは俺だ」
「ふふ。賭けは続行でいいんだな?」
「当たり前だろ」
達也はニヤリと笑うと、審査員たちに視線を戻した。本当はビビリまくってるくせに。内心ドキュドキュンなんだろ? 俺はニヤつくのを堪え、口元だけに留めた。
もう俺に怖いものなんて何もない。
十人の審査員は手元の用紙に書き込みながら、テーブルを回り、十皿の採点を終えると箱の中へその紙を入れていった。
「……これで全部の審査が終わりました。これから集計に入ります。結果発表は三十分後ですので、その間、お買い物などしてお待ちください」
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