第一話 メロン王子

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 集まっていた人たちが散っていく。おじさん達はタバコを吸いたいのか一目散に会場外へ出て行った。 「ソフトクリーム食うか?」  達也が売店を指差す。  ほらきた。結果発表を前に今度はご機嫌取り作戦か。 「祝品ってこと?」 「へ? 三十分ここで待ってるのもだりぃからなんか食おうって言ってるんだよ」  達也はフラフラと売店に近づき、おばちゃんにピースサインを出した。財布から千円札を出す。近所の酪農家の搾りたての牛乳で作ったソフトクリームはJA内でも評判で美味しい。 「ほらよ」  一つを舐めながら、一つを寄越す。 「ありがたくいただくよ」  俺は二つ下とはいえ、大人だからビビらなくても罰ゲームでムチャな要求なんかしないよ。ソフトクリームを受け取り、ひょいと上げてお礼する。  売店の前のいくつかあるベンチに座りソフトクリームを舐めていると、また人がゾロゾロと集まりだした。そろそろ結果発表だ。  他のメロン農家のおじさん達と一緒に並ぶ。JA支店長がマイクを持った。キーンとハウリングして耳が痛い。 「え、えー。皆さん、おまたせしました。今年はどのメロンも大変美味しく、審査は難航しましたが、僅差で金賞、銀賞、美味しいで賞が決まりました!」  俺は背筋をピンと伸ばし待ち構える。 「では発表します! 金賞は……名波メロン! 糖度、味、香り、果汁、どれも最高得点! 素晴らしいメロンです!」  ええええっ! と声のない叫びを上げてると、周りでは「おお!」とおじさん達のどよめきが上がった。 「続いて銀賞は三好メロン! こちら名波とわずか三ポイント差でした! 名波メロンと互角の戦いを……」 「う、そ、だ……」 「続いて美味しいで賞は……」  一気に脱力した俺は、その場に呆然と立ち尽くした。ポンと肩を叩かれる。達也が満面な笑みを浮かべていた。 「残念だったな」  周りの音が全て消えてしまってるのに、達也の声だけはハッキリと聞こえた。そこからはあまり記憶がない。会場は片付けられ、俺は銀賞の楯と賞状を手に、ヨロヨロと会場を後にした。
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