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翌日、ビニールハウスで仕事をしていると、入口に軽トラが止まった。軽トラの横っ腹には名波メロンの文字。
なんなんだよ、うちにまで押しかけてくるなんて。
俺は無視して鋏を手に収穫作業を続けた。辺りの目ぼしいメロンの収穫をし、立ち上がった途端、後ろから腰にグイと腕が回り引き寄せられる。
「うわっ」
「よ、おつかれ」
振り返るともちろん達也だ。視線を外し、鋏を持っていない手で腰に回された腕を引き剥がそうとしたけど、太い腕はビクともしない。
「何の用だよ」
顔だけ振り向いて文句を言うと、達也が目の横にチュッとキスしてきた。
「ちょっとっ!」
手の甲で目の横を何回も拭う。達也はそんな俺をなぜか微笑んで見返す。
「なにって、迎えにきたんだよ。約束したろ?」
「はあ?」
「昨日言ったろ? 明日昼飯一緒に食おうぜって」
全く記憶にない。
「聞いてないけど」
「呆然として耳に入ってなかったんだろ? ま、いいさ。行くぞ」
そのまま腰にぶっとい腕を回したまま、グイグイと歩いていく。
「ちょっと、鋏、メロンもまだ置きっぱ……って放せよ、ちょいっ!」
「ちゃんと休憩は取らないとな! 大丈夫だって一時間で帰してやるから」
達也はそう言うと、軽トラへ俺を押し込みドアをバンと閉めた。全く強引なやつだ。
「聖一は賭けに負けたんだから、俺の言うこと聞かなきゃな?」
ドア越しにニヤリと笑う。
「わかったよ。昼飯な。あ、財布家だわ。取ってくる」
「奢ってやるよ。当たり前だろ?」
達也はドアをバンバンと叩いて運転席へ乗り込み言った。
「自分の女には優しいぜ? 俺」
「冗談はもういいって」
ふぅ。と溜息を零しながら、俺はシートベルトを装着した。
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