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「のう、武元殿。確かに上様が男色に走らぬようにせよと大奥に言われて、身分の軽き女子を用意したのは吾じゃ」
「そのお絹の方が、若君ではのうて姫君をお産みになられた時には、大奥も大層に喜んだ筈じゃな」
「ウム。その通りよ」
武元も相槌をうった。
「それがここに来て、サッサと大奥から出せとは、あまりな言い草だとは思われぬか」
「姫様は、まだ三歳ぞ」
「其処よのう。嫁に出すにも幼な過ぎる。二代様の御代に加賀に嫁入りなされた珠姫様以来、そんなに幼い嫁入りは御座らん」
「松島の局が何と言われようとも、姫様は紛れもなく上様のお血筋ぞ」
「まったくじゃのう」
二人は思わず唸った。
そこで武元が、チョットした思い付きを語ったのが、事の始まりだった。
「いっその事、仮親を立てては如何かの。姫さまをどこぞの親藩の大名家の養女として置いて、ゆっくりと犠牲になって貰う大身の大名家を探すと言うのはどうじゃな」
「それなら大奥から、そんなに急いで出さずとも良かろう」
田沼意次も、それはなかなかに良い案だと相槌をうった。
「然し、その様な都合の良い話に乗ってくれる親藩があろうかのう」
意次の言葉に、心当たりがあると武元が手を打った。
「してそれは、どこの藩かの」
「大垣藩の戸田釆女殿よ」
「大垣藩は、世継ぎ問題で揉めておってのう。姻戚に当たる儂に、息子を一人くれと言ってきておる」
承認して遣る代わりに、この大変な役を押し付けようと武元が語ったのだ。
「そうじゃな。十万石なれば家格も高い」
其れで行こう、ということで意見が一致。
取り敢えず姫は、大名家の養女と言う身分で大奥の扶育を受けて過ごし、大急ぎで嫁ぎ先を探すことに為ったのである。
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