文通友達

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文通友達

 僕は一年前から文通をしている。  相手は二十代の女性で、お互いの住所が離れていたこともあり一度もあったことはない。  文通相手募集サイトで知り合った人で、実家が骨董品を扱うお店を営んでいて手伝いをしているらしい。  特に返信に期限を決めたわけではないけれど、僕らは二週間に一度、手紙のやりとりをしていた。手紙を読むことや書くことが、今では充実した時間になっている。  郵便受けをドキドキしながら開くのも、初めての経験だった。  会おうと思えば会える。  でも不思議と、これくらいの距離感が心地よかった。インターネットになれた僕らにとって、アナログな付き合いは新鮮味にあふれていたのだ。  ある日、仕事の出張で偶然彼女の店のすぐ近くを訪れることになった。  ――これも何かの縁だし、お店の前を通るくらいはしてみようかな。  飛行機のなかで、そんなことを考えたりもした。  いざ現地について仕事が終わると、僕は不安に包まれた。  ズルいことじゃないか、ルール違反じゃないか――そんな風に思ったり。  とはいえ僕らのなかで『会う事』に対する明確なルールは決めていない。仕事のついでに店の軒先を見るくらいはいいだろう。  期待と緊張で早鐘をうつ胸を抑えながら、手紙に記されていた住所へと向かった。 「二の一の……ここのはずだけど」  そこは寂し気な更地になっていた。駐車場を作る予定があるらしく、工事の予定表が張ってある。工程表を確認してみたが住所に間違いはない。  ――わざわざ文通相手に引っ越しの報告なんてしないのかもな。  そう思ったりもしたけど、彼女は日々の暮らしを細やかに書き綴ってくれていた。なにより、ついこの間届いた手紙にもこの住所が記されていたのである。  通りの向かいにコンビニを見つけ、僕は店のひとに聞いてみることにした。 「あの、すいません。向かいの更地なんですけど、骨董品屋さんがあるって聞いてきたのですが……」  年配の男性は僕の問いかけに眉をしかめると、小さな声で言った。 「昔は店があったけどね。一年位前に火事で全部焼けちまったよ。それっきり見ての通りさ」 「一年前に、火事?」  呆然としている僕の耳に、信じられない言葉が届いた。 「かわいそうに。家に住んでいた人たちは皆亡くなっちまってね」  おじさんが言うには、その火事で骨董屋の一家は全員焼死してしまったのだという。
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