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 山一つ越えた平原に、それはあった。  子供たちが駆け巡り、歌を歌っていた。  それを見守るように、母親らしき女が一人、洗った衣服を干している。  小さな集落である。  少し離れた森の木陰に、ディーグとエィウルス一行はいた。 「行け」  頷いた男は、一人草原へ歩きだす。  やがて、男に気付いた女は、子供たちを家の中へ戻した。  子供たちは、扉の影から、それを見ているようだった。  剣を外套へ隠した騎士の一人が、女に近付く。  何事かを一つ二つ話すと、女はニッコリと笑って家の中へ入っていく。出てきたのは、穏やかな男だった。  腰に剣を納めているのが特徴的だった。 「出たぜ、あいつだ」  ディーグは、剣を指差し、エィウルスに告げた。 「いよいよだな」  ディーグが木陰から立ち上がるのと、男が声を上げたのは同時だった。 「おのれ…!賊が…っ!」  剣を引き抜いた男が、騎士たちに取り囲まれる。  悲鳴を上げて逃げ惑うのは、人間と変わらぬ、女や子供だった。決定的に違ったのは、女の瞳。  その双眸が黄金に輝いていた。  駆け出したディーグはあっさりと女を捕まえると、引き倒す。  剣を引き抜くと、呆然としているエィウルスに向かい、低い声を放った。 「やれ、エィウルス」 「…な、に?」 「殺れってんだよ!狩りを!」  腰を抜かしていた女が、ディーグの足元に齧りつく。 「チッ」  舌打ちと同時に、ディーグがその背中に剣を突き刺した。  断末魔も無いまま、女が絶命する。  その力を失った身体を蹴り飛ばし、泣きじゃくりながら母を求める子供へと、向き直る。  ディーグの思惑を理解したエィウルスは、その肩を捕まえる。 「待て、それは…」 「ガキを残しても、恨みが残るだけだろ」 「ディーグ!」 「煩え!」  制止するエィウルスを殴りつけ、ディーグは叫んだ。 「これが狩りだ!見ておけ!」  悲鳴を上げる子どもの首を、切り飛ばした。  返り血を浴びたディーグは、その頬に飛んだ血を拭う事無く、エィウルスに背を向けた。    気付けば、狩りは終わっていた。  ただの殺戮。  そう、見えた。  エィウルスは、言葉を失っていた。  そして、同じく言葉を発することのないディーグの背中を見ていた。  狩りとは。  これを延々と、続けてきたのか。  何の目的のために。
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