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月が出ている。
食事を摂ることも、ディーグへの言葉も無いまま、夜は更けた。
明日も、狩りの予定が入っていた。
騎士の証を受け入れ、ひと月が過ぎようとしていた。
狩りという、殺戮に身を投じたものの、一向に慣れることがなかった。
目を瞑れば、恨みと呪詛を吐きながら絶命していくその姿が代わる代わるエィウルスの脳裏に現れた。
まだ、その手が血にまみれているような気がしていた。
その手を握り、目を瞑った。
ふと、ひやりとしたものが握った手に触れた。
「?」
目を開けば、黒髪を垂らした、騎士団の主、レグニスがそこにいた。
「手が、どうかしたのか」
小さな唇が問いかける。
「いや、…なんでもない」
深い青の双眸が、エィウルスを真っ直ぐに見ていた。それに全てを見透かされているような感覚が、エィウルスの心臓を掴んだ。
触れてみたいと、ふとエィウルスは思った。
この手に触れている指は、まことか。作り物ではないのか、そう疑わざるを得なかった。
ただ、美しい。
見れば、見るほどに、この口が、あの惨劇を望んでいるのかと、確かめたくなるのはなぜか。
「狩りは慣れたか」
レグニスの問いに、エィウルスは首を振った。
「そうか」
「なぜ、狩るんだ」
エィウルスの問いに、レグニスは、目を少しばかり見開き、驚いた顔を見せた。
「なぜ」
「そんな問いを返されたのは初めてだ」
お前だけだよ、そう言ってレグニスは微笑んだ。
エィウルスは、その横顔を見つめた。
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