隣人

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隣人

ドンドンドンドンドンッ!!! 301号室に、お隣りが引っ越して来た数年前の初秋。その日から毎日、深夜に子どもの泣き叫ぶ声や、オモチャのピアノの電子音、タンスを倒す様な音、ドンドンッと壁を蹴り上げる様な音が決まって夜の22時から朝方の8時まで続く様になりました。 「夜泣きかなぁ……あれじゃ、お母さんも大変だろうな……」 ウチにも小さな子供はおりましたし、昼間沢山遊ばせても夜グズる事もありましたから、酷い泣きようだなぁ……毎日これじゃ、お母さんも夜中、大変だろうなと思っておりました。 只、私は昼間、働いておりましたので、さすがに深夜、何度も壁を蹴り上げる音や泣き叫ぶ声で叩き起こされるのは辛いものがありました。でも、きっと子どもも引っ越しで環境が変わって辛いんだろうと思い、寝室から少し離れたトイレや浴室に座り、眠れない夜を過ごす様になりました。 そんなある日、買い物から帰ってくると、小さな女の子が道路の真ん中に座り込んでギャンギャン泣いていました。そこはマンションの前とはいえど、迂回する車が多く、通り抜けをする車もよくありましたので、 「大丈夫?そこは危ないよ」 と声をかけると、子どもがグルンッと首を傾け、パッタンと道路に寝転んでしまったのです。細い子どもの足は、同い年くらいの子どもの腕ほどしかありませんでした。窪んだ目が爛々と何かを見つめています。 「ママは?」 と尋ね、子どもの視線を辿ると、白いカーディガンを羽織った黒髪の長い女性が自転車置き場とマンションの黒い壁の隙間から、じ……っと地面の一点を見つめたままブツブツと何か呟いていました。 「……………て」 何と言ったのか聞き取れなかった事を気にかけながら、その日は就寝する事にしました。もう1年ほど、まともな睡眠がとれておらず、仕事と育児で体力的にも精神的にも限界に達していた私は、ウトウトとし始めました。
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