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わずかに動く四肢を懸命に蠢かせて逃げようとする俺に向かって、少女じみた美貌を妖艶に歪めた少年は――俺にとって、生徒に当たる少年は、そう告げた。
嘘だ……嘘だ……嘘だ……!
唇が震える。
彼が、支配級のα(アルファ)なのは知っていた。
天花寺(てんかじ)の性を持つ彼は、金持ちの子供が集うこの学園でも、トップクラスに裕福な家庭で、学内外に大いなる権力を持つ。
支配級の家庭の子供は大半がαで、彼も例を漏れずにその一人だった。
特に、天花寺家というのは我が国でも、高貴な血(ブルーブラッド)と呼ばれる――αの中でも特別な、貴族の血に連なる家系である。他の一般的なαさえも付き従えさせることのできる稀有な血統だった。
彼の年齢的にまだαとしての本能を持つには早く、そのうち適齢期がきたら彼の番を――運命のΩを見つけることだろうと、他人事のように思っていた。
いや。彼のそういった個人的な未来に想いを馳せることすら、なかった。俺と彼の関係は単なる教師と生徒であり、それ以上でもそれ以下でも、ない――はずだったのだ。
それなのに……どうして、何が……起きて……こうなってしまったのか……
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