238人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生。動けないよね? ゴメンね、先生。薬なんて、使って。ほら、ぼく……か弱い子供だからさ。今はまだ、先生に本気で抵抗されたら……面倒で。ああ、かわいいなぁ……自分がどういう目に合うかわかって、涙が出てる……先生、小さい子供みたいだ」
大人なのにね?
そう言いながら、白魚のような白くて細い指先が俺の目元をぬぐい、濡れた指先をペロリと赤い舌先で舐めあげる。綺麗な少年だとは、思っていた。少女の衣服を身にまとえば、十中八九、性別を偽ることができるくらいに、整った顔立ちをしている。
身体つきもまだ、同じ年頃の女子とさほどの差異はないように思える。
俺の知る天花寺という生徒はもっと大人し気で、内向的に見える少年だった。
こんな、獣を定めた蛇のような眼差しをする少年ではなかったはずだ。
「や……めろ……やめ、なさい……」
教師として、大人として懸命に威厳を保とうとするも、一笑されて終わる。
この時俺は、どんな表情をしていただろう。絶望に、情けなく歪んでいたのだろうか。
指摘されたように、涙を浮かべていたかもしれないが……認めたくはない。
嘘だ。信じられない。きっと、これから先、何度でも思うだろう。今日のことを、思い出す度に。この件が未遂に終わっても、終わらなくても。
だって、俺はαの番になるべく生まれた性別(クラス)ではない。
αはα同士で番になるか、男女共に子を成すことができるΩとしか、番にならない。なるわけが、ない。
最初のコメントを投稿しよう!