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「お、俺はβだ……!」
教師と生徒という立場上、俺が天花寺の性別を知っているのは仕方がない。
けれども、一般的に自分の性別を他者に教えることは、様々な問題があるとして、暗黙の了解でタブー視されている。それでも、俺は自分がβであることを告げる他、現状を打破することはできないと、思っていた。
何が、この美しく大人しいと思っていた生徒をこんな凶行に狩りたてのかは、まったくわからないけれども、この事実を突きつければ、いなすことができると……この時の俺は、愚かにもそう思っていた。
だが――
「知ってるよ。ぼくが、先生のことで知らないことなんか、あるわけないじゃない」
笑いを含んだ声で事もなげに言われたその言葉で、俺の希望は打ち砕かれた。
血の気が引く。
「βだから……何?」
おかしそうに聞き返されて、俺は言葉を失う。
βは――絶対的なカリスマを誇るαとも、男女共に子を成すことができる特別な存在、Ωとも違う。凡庸で、もっとも有り触れた階位だ。人口の七から八割程度は、βだと言われている。βはαやΩのように運命の番などという、ロマンティックかつ情熱的な番を求めることなく、俺々凡々な人生を送るものと、相場が決まっていた。
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