二章 変化するカラダ

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 生徒と違い、教師に夏休みはあまり関係ないのだけれども、盆を含んだ数日間は休むことができる。その期間を利用して、教師陣も海外へ旅行したり楽しんでいるようだが、借金を背負っている俺はそんな余裕もあるはずもなく、予定といえば実家に帰るくらいだった。 「なら、うちに遊びに来ないか? 今年は新しいクルーザーを買ったんだ」 「クルーザーですか」  さすが、芳名学園のエリート教師。気さくで頼りになる先輩だが、この辺りは金持ちのαである。クルーザーを新調できるとは、桁違いである。新車を買ったんだ、と同じくらいの感覚なのだろう。俺からしたら、新車を買い替えるのもすごいことだと思うのだが。 「どう? 女の子も呼ぶけど。Ωの男の子が好みなら、そっちも呼ぶよ?」  教師と言えども、夏休みくらいは羽休みしたいよねと気軽に笑う。 「いや、残念ですが俺はちょっと……。実は、海苦手で」  先輩からの誘いを断るのは心苦しいが、きちんと言っておかないと反対に迷惑をかけてしまう。  海というか、水全般が俺は苦手だった。昔はそんなことなく、泳ぎはどちらかといえば得意な方だった。母方の田舎に川があり、よく川泳ぎなどをして遊んだものだ。  しかし、大学時代に仲間で行った旅行先で溺れている小さな子供を救出し、無事に子供を助けることはできたのだが……俺は、それ以降水が苦手になった。助けた側が水恐怖症に陥ってしまうとは、笑い話にもならないが、今の俺はプールにもあまり行きたいとは思わない。     
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