冷たい瞳と熱いキス

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「おなか、すいてるんですか?」 この人は私の顔を見るたびにそんな問い掛けをする。 はあ!? って心境でもそんな失礼な事は言えず、曖昧に笑って返す。 すると決まってこの人は冷たい瞳に、口の端を僅かにあげた笑みでこたえる。 小学1年生の息子のサッカー教室で、送迎する私とコーチとの一分間にも満たない毎回のやりとり。 思わず出そうになった溜め息を飲み込んだところで陸が荷物をまとめて、グラウンドから出てきた。 「ママ~っ!」 私を見つけて満面の笑みで飛び込んでくる。 夫が単身赴任であることが関係あるのかどうか分からないが、陸はまだまだ周りの目を気にしない甘えたの子供だ。 陸の全身ダイブを受け止めきれず後ろによろめいたけれど、背中を支えられて(?)、なんとか、転倒は免れた。 「うっわ、危ないって。陸。」 「ママ~、今日僕シュートしたんだよっ、ね、格好良かったよね、コーチ。」 前半は私に後半はいつの間にか背後にいた沙原コーチに話しかける。 「おう、今日の陸の活躍は香川真司だったな。」 明らかに取って付けた笑みを張り付けて、調子よく答える。 沙原コーチ。 「でしょでしょー。」 とご機嫌な陸だけれども。 沙原コーチ。 今、私の背中を押しましたよね。 支えるんじゃなくて。 明らかに自分にぶつからないように押し返しましたよね。 ムッとして、思わず睨み付けてしまう。 分かっているのかいないのか、けれどもコーチは飄々とした笑顔でさらっとかわす。 「お母さん、今日の陸の頑張りはスバラシかったですよ。家でも誉めてあげてください。」 「…ありがとうございます。」 たとえ思っていなくても、他のお母さんの手前、愛想良く、感謝の言葉をはいていく。 「陸、 頑張ったからね~、今日はハンバーグ食べたいっ。」 「えーっ、お肉買いに行かなきゃ。」 沙原コーチの冷たい視線を背中に感じながら、何も気づかないふりをして今日も帰路につく。
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