冷たい瞳と熱いキス

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彼は自分の注文したトレーを持って、いつもの取って付けた笑みを浮かべ私のすぐ側に立っていた。 「ここ、いいですよね。」 そう言って勝手に私の前の席に座ってしまう。 他にも空いてる席はあるのに。 びっくり、固まる私にコーチは意地の悪い笑みを浮かべる。 「間抜けな面。」 何と返していいものか、答えるあぐねてやっぱり曖昧に笑って返す。 「言われっぱなし?それともどうでもいい?」 さすがにムカついてきて、今日は陸もいないし、少しぐらい言い返したって大丈夫だろうか。 「沙原コーチって、時々失礼ですよね。」 「時々?」 にやにやと挙げ足を取るコーチに余計イライラさせられる。 「いえ、いつも。」 コーチは私の本音を引き出して、くっくっくっと、笑い出す。 私は笑えないんだけど。 「そんなに私が嫌いならほおっておいてくれればいいのに。」 そう言うとコーチは心外だと言わんばかりの顔をする。 「嫌ってる?とんでもない。気に入ってるんですよ。大好きな子はいじめたくなるっていう、男のさがです。」 大好きな子を相手にしているとは到底思えない余裕の表情で、嘯く。 よくまあそんな心にもないことを、ぺらぺらと言えるもんだ。
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