冷たい瞳と熱いキス

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「勝負って。」 「一度俺とデートして下さい。それで少しでも俺に気持ちが揺れたら貴女の負け。でも、貴女は自分の感情に自信があるようですから問題ないですよね。」 「もちろんよっ。」 後になって冷静に考えれば、売り言葉に買い言葉だった。 子供じゃあるまいし、ムキになって完全にのせられた。 別れ際のコーチのしたり顔が、まぶたに焼き付いて、思い出してもまたムカつく。 なんで、こんな事になっちゃったのか。 あんのお馬鹿コーチが突然妙なことを言い始めたからだ。 嫌がらせにしたってやりすぎでしょ。 遊びたいならもっと人を選ぶべきだよ。 わざわざおばさんを、人妻を、選ばなくても。 沙原コーチなら相手に困らないだろうに。 コーチは背が高く、サッカー教室のコーチをしているだけあって、体育会系の筋肉質な体つきをしている。 更に端正で爽やかな顔をしていては、実際女の人がほっとかないだろう。 愛想もいいので、教室のお母様達にさえ人気が高く、毎回常に誰かがコーチの周りには群がっている。 其れなりに何でもこなし、きっと要領もよく人生なめきってるんじゃないかと思う。 勝手に女が寄ってくるからよりどりみどり、手当たり次第遊び放題。 なのにそんな沙原コーチに私が好感をもてなかったのは、最初から他のお母さんへの態度と微妙に違ったからだ。 毎回「お腹すいてるの」かと聞いてきて、決して好意的ではない試すようなニヒルな笑みを浮かべられていては好意も覚めるというもの。
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