奇妙さ、それは奇妙だ

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「そう。そうなんですよ。誰が聞いてもウサギは負けている。それなのにねえ、ウサギ本人がそれを認めないんですよ」 「それは、なんで」 「さあ、なんででしょうね」  亀はあっけらかんと言う。 「でもたぶん、思うのは。ウサギは自分を大切にしていないんでしょうね」 「大切に、していない」 「そうですよ。何をされても、認めない。しかも意地になっているわけでもないんです。ただただ、負けてないって。でもね、そう言う奴って、おそらく勝っても同じことを言うんでしょうね。俺は勝ってないって。要するに、自分自身に鈍いんですよ」 「鈍い、とは」  亀は、僕の相槌があまりにも素敵過ぎたのか、饒舌に答えてくれる。 「だってそうでしょ。鈍感なんです鈍感。鈍くていいって思ってる。それってもうほとんど、自殺です。ゆるやかな自殺をしているんです。外側の現実を客観視しないで、内側の世界だけを守る。内も外もあって、初めて自分なのに。外側ばかり見ていたら空っぽになっちゃうけれど、内側ばかり見ていると、いつか死ぬ。鈍いってことは気づいてないってことで、それでよしとしちゃってるってことなんですよ」  そこで亀は断言した。 「鈍い人間はいつか死ぬ。近い将来、確実にね」  亀は続けてこうも言った。     
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