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第三章 白い一族のイカル
即位式を明日に控え、白い一族の大宮は、準備の真っ最中だった。招待客の為に、宿泊の為の部屋も整えられ、祝宴の為の料理などの準備もつつがなく。
クグイは、部屋で一人、式の為の衣装を確かめていた。これを着て、式を執り行う。クグイが鏡を、トキが剣を、カマメが玉璽を、当日、祭壇に掲げる。式を執り行うのは巫女であるクグイ。そこで、水の神を呼び、神の前で王との婚姻を誓い、王に水の神を降ろすのだ。後、水の神と一体となった王と初夜を迎える事で、即位の式は終わる。その為、即位式は夜に執り行われる。王と王妃は閨に消え、立席する者達には宴が饗されるのだ。
しかし、鏡が無いだけでなく、もうクグイに神は呼べない。何故なら、巫女長の座は、既にアトリに移っているからだ。
神が現れないとわかった時、恐らく式は台無しになるだろうし、その場でカマメに切り結ばれるだろう。しかし、それでいいのだ。ようやく、マサキの居る黄泉へ行ける。
偽王となれば、トキとイカルの手によって、カマメも撃たれるだろう。そうなれば、アトリが正しい作法にのっとって、イカルかキギスを選べばよいのだ。
しかし……。クグイは自答する。何故、ここまで引き伸ばしてしまったのか。己の命をかけて、カマメと刺し違えるべきではなかったのか。
カマメに犯されながら、自分はそれを喜び、受け入れていたのではないだろうか。
それは、あってはならない事だ。この身はうつせみ。クグイという器にすぎないというのに……。
クグイは、昨晩の事を思い出す。カマメが、クグイをうかれめと言ってなじった。男であれば、誰とでも情交を交わすなら、何故自分に心を開かないと。
「何も感じていないふりをしても、俺にはわかる、お前のここは、俺を喜んで受け入れているではないか」
そう言いながら、カマメをさらに深く、奥まで突き入れる。
「さあ、孕め、俺の子を! 王と王妃の、跡を継ぐ者を!」
後宮に、何人もの側室をかかえ、女官にさえ手を出しておきながら、いまだにカマメはそんな事を言う。
泣いているように顔を歪め、すがりつくようにクグイを抱きながら、怒りとも、哀しみともつかない顔を見せる。
しかし、カマメを救う事は、クグイにはできない。
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