第二章 赤い一族のキギス

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 イカルが言うと、クグイが無事だった以上、遠からずそうなる事はわかっていたとはいえ思っていたよりもずっと早いその動きに、イカルも驚いているのだ、と、付け加えた。 「……私も、大宮へ行くことは可能だろうか?」 「即位式に出たいと?」 「参列がかなわなくても、せめて近くに行くことはできぬか?」  クグイが、母が鏡を持たない事に気づかれたら。その時こそ、母は殺されてしまうのでは無いか、アトリは思った。  ハヤと共に端女の一人として一行に紛れる事は可能だろうか……イカルは思った。しかし、当然危険もともなう。だが、逆に考えれば、即位式に参列する為、手薄になるであろうイカルの宮を、万が一強襲されたとしたら。残った手勢でアトリを守り切れるだろうか。  父は、カマメは、アトリ探索の手はまだゆるめていない。イカルに対して疑惑を持っている可能性もある。 「……ダメだろうか」  下から、上目遣いでアトリがイカルを見る。潤んだ瞳に、イカルの満たされたはずの情欲が、再びくすぶり出した。 「そうだな、供に行くか」 「そうか、よかった!」  うれしそうなアトリに、イカルが再びのしかかる。 「いや、今日は、もう……」  わずかに顔をそむけるアトリの首筋に、イカルが舌を這わせる。 「お前が、あんな顔をするのが悪い」 「待て!私は、そんなつもりで……ッ」  首筋を這っていた舌が、再び固くなりはじめたアトリのち首を甘く噛む。 「あッ、ンッ、いやぁ……」  舌と指で、イカルが乳首を弄ぶと、拒絶の言葉を口にしながら、アトリの体も熱くなってくる。 「では、もう辞めるか」  いじわるそうにイカルが言うと、アトリが頬を染めて、答えた。 「……やめなくて、よい」  イカルは、喜んで、『二度目』を始めたのだった。
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