第三章 白い一族のイカル

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 何故、俺を選ばない、そう言って、若いカマメは、クグイを犯そうとしたが、水の神によって阻まれた。そのことは、いっそうカマメの性質を歪めた。クグイで無ければ女など誰でも一緒だった。手当たり次第に女を犯し、孕ませた。次々と子供が生まれた。そのうちの一人が、トキへ嫁がせた娘だった。  クグイが、王を選ばなかった為、王妃であり、先代の巫女長だったタカラが女王となった。  王を選ばなかったにも関わらず、クグイは娘を産んだ。クグイは、父親を神だと言って聞かなかった。  しかし、人々は、赤い一族の長、トキこそがその父だと噂した。そうなれば、いずれクグイが選ぶのはトキであると。トキがクグイに選ばれ、王となり、白い一族の長はマサキになる。  そうなったら、自分の居場所は何処にあるのだろう。  クグイの横に立つには、白い一族の長になる他ない。  カマメは、思いつめ、ついには、マサキに、謀反の嫌疑をかけ、幽閉した。身の潔白を訴えながら、マサキは獄中で自害して果てた。  白い一族の長の座も手に入れた。  クグイの夫としての王も、間もなく手にはいろうとしている。  しかし、カマメが満たされる事は無い。  どんなにカマメ自身が欲し、手に入れても、カマメ自身を欲してくれる者は居ないのだ。  アトリが巫女長となれば、いずれはイカルか、キギスを選ぶのだろう。だが、そうなれば、もう、クグイを手に入れる為の口実が無くなってしまう。  カマメは、決意をした。力ずくでクグイを奪い、我が者にする事を。  村を焼き、女達を攫った。アトリの行方が気がかりではあったが、クグイが自分の手元にいれば、クグイに自分の子供を生ませればいい。男ならば世継ぎに、女ならばクグイの跡継ぎに、そうすれば、アトリなど不要だ。  カマメは、毎夜クグイを犯す。  子を成す為に。そして、明日には、クグイは正式にカマメの妃になる。  正しい王と、正しい王妃。  カマメは、喜びに喉の奥を鳴らす。  不思議な事に、カマメは、クグイの姿がマサキと重なった。  血すじ正しき、異母兄は、おだやかで、いつも笑っていた。  思えば、自分を、片腕として必要としてくれていたのは、マサキだけだったのでは無いか。  先に立たないからこその後悔。  カマメは、自らの居場所を自分で壊してしまったのでは無いだろうか。
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