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「魔法の法則、わかって無いだろ?」
「ちゃんと覚えていたさ! ほら、あの……」
『一.魔法をかけられたものは、出会った相手の理想の人物に変身する』
「これは、出会った人全員に好かれますって事だよね?」
「そのとおり、だけど、魔法使いには効かない」
『二.魔法使いになった者には魔法は効かない』
「ってことね」
『三.相手の理想の人物像を超えると魔法が解ける』
「これは……相手の理想を超えるって――無理じゃね?」
「難しいだろうね……」
「一生魔法がかかったマンマでも、ぜんぜん平気、と、言うか、誰だって、一生みんなから好かれ続けたいと思うだろ?」
ユーマは答えなかった。それは、そうじゃない人もいるだろうから、絶対ではないだろうけど、大体の人は、みんなから好かれたいと思っているに違いない。
もしかすると、ユーマは違うのかもしれない。
僕はユーマに心から憧れていた。こんなにも気作な性格で、見た目は抜群、さらさらしたブロンドで、真っ白な肌に東洋的な切れ長の目、加えて高身長に驚くほどの股下の長さ……たぶん、九頭身近いだろう。
この、掃き溜めの様な僕の部屋に金色の狼がいるなんて、違和感しか感じない。
そして、笑顔になればその辺の女の子じゃ相手にならないほどの可愛らしい表情を見せる。
憧れているのは僕だけじゃない。高校の同じクラスの女子は皆、ユーマと話す時いつも誇らしげにしていた。
それは、他のクラスの女の子達が、まるで、アイドルを眺める様に廊下から見つめているのに対して、彼女達の、その目の前で『普通の友人』として接する事ができるからだ。
同じクラスの女の子達は、まるで宝塚の男役のように胸を張ってユーマと話す。
ユーマと『普通』に話せる事は、彼女達にとっての『特別』だったのだ。
それに引き換え、僕はどうだろう。比べるまでもないし、比べたくもない。
しかし、否応なしに比べてしまう。
ユーマの輝きが、まぶしければ眩しいほど、僕の背中に落とす影の色を濃くする。
そして、ユーマはそれを解っている。
解っていながら、気が付かないふりをする。僕を普通の友人として――普通の人間として扱い、僕にも、僕が普通の人間の生活をしているのだと錯覚させてくれる。
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