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「……はい」
何時間も出していなかった声は、がらがらに掠れていた。
けれど、そんなことは彼にとって問題ではなかった。
「あ、遅くなってごめんな。今から帰るから、一時間くらいで着けると思う。悪い、よろしく」
それだけが一方的に告げられ、残ったものは先ほどよりも低く、冷たい機械音だけだった。
かちゃり、と力なく受話器を置いて、私は肩を落とした。
受話器が映り込む視界が、涙で歪んだ。
ビーフシチューの焦げた臭いが、私の鼻をついた。
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