秋祭り

6/14
72人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
店主は圭介を見た後に俺を見ると、人懐っこい笑みを浮かべる。 「お、兄ちゃん彼女にプレゼントかい?」 「そうなんですよー。コイツ可愛いからすぐナンパされちゃうんで」 ツッコミどころに困って黙る。 「いい彼氏さんだ。まけてやるよ」 「いいんすか!? ありがとうございます!」 圭介が金を払うのを確認してから、お面をつけた。 「うん、お姉ちゃんもそれならナンパされまいよ。楽しんでおいで」 そう言って笑顔で手を振る店主に複雑な心境で軽く頭を下げて、野菜共の元へ行き、再び歩き出す。 その後はカルメ焼き、さつまスティック、チュロス、ミニカステラなどを圭介に買ってもらって祭りを堪能した。 甘いものばかり食らう俺に、野菜共は苦笑する。 「そんなに甘いものばっかで、気持ち悪くならないのか?」 ナスが心配そうに見てくる。 「時々圭介からたこ焼きだのなんだの少しもらって口直ししてたしな。でも喉乾いた。圭介、かちわり買ってくれ。青いヤツ」 「へいへい、人使い荒いんだから……」 文句を言いつつかちわりの露店へ向かう。俺らも、と野菜共もついて行った。 あたりを見回すと、例の牡丹の浴衣が見えた。艶やかな短い黒髪に、色白の肌。決して傲慢さのない、品のある顔立ちの女だ。 ひと目でわかるような美人という訳ではないが、静かな美を持ち合わせていた。 ひとりで不安げにきょろきょろしているのが初々しく、愛らしくもあった。 彼女に見とれていると、突如冷たいものが首に当たる。何事かと振り返れば、カチワリを持った圭介たちだった。 「ぼんやりしてどうした? 美人でもいたか?」 圭介はニヤニヤしながら茶化してくる。 そんな圭介からかちわりを受け取り、ひと口飲んでからそんなところ、と答えれば目を丸くした。 「お前が言うんじゃ、よっぽどいい女なんだろ? どこだ?」 圭介と野菜共は必死になって見渡しはじめる。俺も会場をぐるりと見回すが、もう見当たらない。 「もう見えねェし、お前達にはあの女の良さは分かるまい」 そう言ってクツクツ笑うと、三人はつまらなそうな顔をした。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!