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どうしたのか、と考えることもなかった。いつも傍にあるあたたかいぬくもりに、安堵さえ覚えていたのだ。
「……っ」
次の瞬間、汐音の肩に手が置かれて唇になにか柔らかいものが押し当てられる。しかし酔い潰れていたのと、酷い眠気のせいで頭は働かず数十秒されるがままだった。
汐音は目を見開いて現実を確かめようなんて思いもしなかった。やがて行為が終わったのか、あっさりと離れる。梓真の気配が部屋の中から完全に消えた頃に、一体なにをされたのか気づいたのだ。
キスをされてしまった。
驚いた。自覚すると汐音の頬は熱くなり、慌ててふれられた部分を指の腹でそっと押さえる。
「罰ゲームのあれも、キスだった?」
感覚に覚えがあったのだ。
今になって気づくなんて、と苦い気持ちが胸に広がる。あの時は冗談めかして流されたので、まさかキスだと思いもしなかったのだ。
どういうつもりで梓真は眠っている汐音に口づけてきたのか。以前から軽いスキンシップぐらいはあったし、酔いの勢いで抱き締められた経験は幾度もある。
でも今回の件は、これまでのものとは違う。冗談の延長の行為ではないのは明らかだ。
「どうしよう」
梓真本人に問い詰めるか悩んだ。はやく決断しなければ、部屋に戻って来てしまう。
「やっぱりまた、バレるよな。こんなの」
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