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驚かないわけにはいかなかった。恋愛にはまるで関心のなかった梓真に、好きな人がいたらしい。
話しぶりからして、間違いなく汐音のことではない。悲しい経験をして、現在誰かと好きな相手を取りあっている。
そんな風に聞こえた。
じゃあ、さっきのキスはどういう意味だったのだろうか、ともう一度考えてしまう。出した結論は、やりきれない気持ちを仲のいい友人にぶつけ、吐き出しただけではないだろうか。
まだ汐音も混乱していて想像の域を出ないが、これ以上梓真と誰かの会話を聞くわけにはいかなかった。音を立てないようにそっとリビングへと戻る。
「はは、なにも知らなかったな」
自嘲気味に笑いながら、ソファに寝転ぶ。梓真のことを待ったが、朝まで帰ってこなかったのでどこかに出掛けたらしい。
その後、いたたまれなくて汐音は置手紙をして早朝に帰った。酔いが酷くて本格的に調子が悪いから、ひとりで家にいると。
梓真からの返事はその日のうちにはなく、暫くして調子はどうかと連絡があったが大丈夫だと短く返した。いつもなら病状まで詳しく聞いてくるのに、それ以上汐音が追及されることはなかった。
多分、梓真の好きな相手となにか問題でも起きたのではないだろうか。そうなってしまえば、友人なんて後回しになる。
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