魔王編1

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汐音は好意を自覚する前と同じ態度を取れるのか。もし梓真が、なんの感情もない単なるスキンシップのつもりでまた口づけてきたらどうなるか。 恋愛感情を隠し通す自信はまるでない。嘘が苦手で要領も悪いので、汐音の不審な態度を見咎められたら一発でバレる。 じゃあ告白するのか、ということも考えてみたがそんな勇気も到底なかった。好きな相手が既にいることを知り、振られる未来が見えているのだから余計に言いにくい。 そうしているうちに、珍しくきちんと梓真から会って大切な話がしたいと連絡があった。断ることはできたが、避けて余計に怪しまれるのは本意ではない。 なんだか嫌な予感がして気が進まないけれど、汐音はこれ以上逃げることはできなかったのだ。顔を合わせて、梓真の態度を見てから未来のことを決めても遅くはない。 とにかく、なにを伝えられても大人しく最後まで聞いていようと思った。あまりにも梓真が好きな相手のことで嬉しそうにしていれば、好意を伝えず潔く身を引くという選択肢もある。 好きな人のことを相談されるのなら、友人として協力すればいい。もし先に、汐音の不審な態度に目をつけられてしまったら、恋愛感情があることを話す。 汐音はあれこれ考えてみたが、きっとそう簡単なことではない。どう転んでも苦しい道しかないかもしれないが、ひとりで迷っているほうが辛かった。     
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