魔王編1

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「よし。行くか」 うだうだと頭の中で考えていたが、いい加減腹をくくった。男らしくないじゃないかと。 運悪く電車が遅れてしまったので約束の時刻を少し過ぎている。既に梓真の部屋の前だったが、緊張しながら合鍵で扉を開いた。 どんな結果になっても後悔しない。きちんと向き合い話そうと汐音は決めていたのだ。 「あれ? 梓真」 玄関に入った途端に奇妙な匂いが不意に漂ってきて、汐音は不審に思った。部屋の奥に向かって声をあげたが返事もない。 少し遅れると直前でメールを入れておいたのと、梓真の靴があったので室内にいるのは間違いなかった。怪訝に眉を顰めながら足を早め、リビングの扉を勢いよく開く。 「遅くなってごめん、どうし……っ」 汐音の言葉は途中で止まった。衝撃的な光景が飛び込んできたからだ。 「えっ……え?」 動揺していると、遅れてあまり嗅いだことのない類の香りがツンと鼻を刺激する。頬を生ぬるい風が撫でたのは、窓が開いてカーテンが揺れていたからだろう。 梓真はソファに座っていた。だが、腹に黒い大剣のようなものが刺さり大量出血していたのだ。 「あっ、ぁ、あ……あず、ま?」     
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