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数十分電車が遅延したとはいえ、予定外の遅れがなければ問題なく合流できていた。梓真に起きた出来事のきっかけぐらいは、知れたかもしれない。
「ごめん、ごめん」
こんな、普通ではない死に方をしたのだ。犯人の手掛かりなんて残っていない可能性のほうが高い。
猟奇的な事件としてテレビやメディアで面白おかしく騒がれることも、容易に想像できた。汐音の頭の中をぐるぐると、いろんな感情が体中を駆け巡り気持ち悪さまで込みあげてくる。
でもやはり一番思うのは、梓真への申し訳なさだった。
この一週間ほど避けていたから余計にだ。ちょっとのすれ違いが、まさか一生後悔することになろうとは。
「せっかく、好きってわかったのに……こんなのって、ないよ」
その時、くしゃりと汐音の顔が歪んだ。
まだなにも伝えていない。友人以上の恋愛感情を抱いていることを知った矢先に、相手がいなくなるなんて思ってもいなかった。
一度死を認めてしまえば、急に世界が灰色になったみたいに絶望的な激情が押し寄せる。目尻から涙が滲みぽたぽたと床へ落ちた。
「梓真がいないのに、どうやって生きていけばいい?」
楽しことも、辛いこともふたりで乗り越えてきた。汐音には仲のいい友人は梓真だけだったので、代わりになる存在なんていない。
きっとこれから先、友人なんてできはしないだろう。
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