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その日汐音が仕事終わりでオフィスを出ようとしたところを、上司に呼び止められた。片手で眼鏡のフレームを押しあげ、振り返る。
「久禮ちょっといいか。梓真のことで、相談があるんだが」
「えっと、構いませんけど」
友人の梓真とは子供の頃からのかなり長いつき合いで、上司は梓真の兄である清勝則だ。同じ会社で働くようになって数年経つが、仕事以外のことで個人的に誘われたことはない。
どうしたのだろうと思いながら、近場のカフェに入り話を聞くことにした。勝則は険しい顔で告げる。
「実は、あいつに縁談の話があるんだけど……」
「そうなんですか! 梓真から異性の話を聞いたことがなかったので、正直にびっくりしました。で、どうして俺にその話をしたんですか?」
「問題は、そこなんだ」
今の時代に、親の決めた縁談なんてと内心思ったが口にはせず、汐音は素直な気持ちで驚いた。幼稚園から同じで、偶然にも大学まで一緒という大親友だったが、女子の話などしたことがない。
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