1842人が本棚に入れています
本棚に追加
ぐっと唇を噛み締める。すべてを諦めたような汰央の顔に、苛立ちを覚えたからだ。
「遅いって、どうして今まで黙ってたんだよ。もっとはやく、ほんとうのことを教えてくれたら……っ」
「なにも変わらないだろう。汐音は優しいから、これまで一緒だった梓真のことも憎めない」
「ッ!?」
汰央は完璧に汐音の心を読んでいた。いや、汐音以上にわかっていたのだ。
昔の梓真がしたことは許されることではないけれど、長いこと傍にいてくれたことだけは本物だった。汐音と本気で友人関係を築き、楽しませてくれた事実は消えない。
「……そんなこと、ない。俺の友達がもうひとりいたこと、もっとはやく知りたかった」
「悪いな、汐音。俺は友達にはなれないと思ったから、言わなかった」
「えっ、汰央と友達には戻れないの?」
「そうだ。俺はお前が好きだから、友達ではいられない」
「す、き……」
友達には戻れないと言われてショックを受けていたが、理由は単純だった。そうだったのだ。
汰央は、汐音のことをずっと愛していると言い続けてきた。
恋をして好きになれば友人でいられないことは、汐音もよく知っている。好意があるのに今まで通りのつきあいをしろなんて、拷問に近いことだ。
最初のコメントを投稿しよう!