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魔王だった梓真は魔物の噂を聞いて、汐音を探しに村へとやって来た。素直について行っていれば、汰央の人生を狂わすことにはならなかったはずだ。
汐音みたいに天涯孤独ならばよかったのに、汰央には両親も兄弟もいた。その家族を、まるごと梓真に取られて深い孤独に突き落とされたことを思うと、辛すぎる。
元が人間だから、魔物と仲良くすることもなかっただろう。考え方が異なる種族なので、話が通じたかさえ怪しい。
魔王になったとはいえ、相当苦労したに違いない。なのに、数年後ようやく再会した汐音に封じられることになってしまったなんて、悲惨な運命としか言いようがない。
「ほんとうのこと言ってよ。俺を恨んでくれたほうが、まだいい……」
「俺は嘘なんかつかない。魔王にならなければ、いずれ汐音の傍を離れることになっていただろう。もしくは、傷つけるようなこともしていたかもしれない。若さゆえの過ちを犯す可能性はあったからな」
「過ち、って……なに?」
「汐音の気持ちを考えず、強引に抱こうとしたかもしれない。まだ子供だったのに、俺は欲情していたからな」
「そんな……」
もしも、の話なんかしても意味はなかった。汰央はなにもしていないのに、申し訳なさそうに目を伏せている。
誰かが悪いわけじゃない。そのことにようやく気づいて汐音はほんのり頬を染めながら告げる。
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