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ずっと一緒にいて欲しいという本音は告げるのを途中でやめた。梓真ときちんと話をした後に、まだ同じ気持ちだったら話そうと心の中で決める。
「協力する前に汐音にお願いがある。いいか」
「えっ、た……お……っ、あ、あの、えっと」
「抱き締めたかった。もう一度」
胸が張り裂けそうなぐらい痛む。肩が微かに震えて涙が滲み出てしまいそうだったが、汐音は必死で堪えた。
「しばらくこのままでいさせてくれ」
応えるように背中に両腕を回して、しっかりと抱き締め返す。言葉にしたい気持ちを、すべて必死に飲み込んだ。
汰央が体験した辛い出来事を、安易に慰めるような真似はできない。きっと同情されても嬉しくはないはずだ。
だからといってなにもしないわけにはいかない。汰央を少しでも喜ばせたくて、手のひらに力をこめる。
どのぐらい抱き合っていたのか、時間はわからなかったけどようやくそっと離された。汐音の頬は、ほんのりと赤色に染まっている。
「ところであの男はどこに行った」
「邪神の力がほとんど戻ったから、封印を解きに行くって……」
「なんだと? それはマズイな。はやく追いかけたほうがいい。行くぞ」
説明すると汰央はあからさまに焦りを顔に浮かべて荒々しく舌打ちをした。尋常じゃない様子に緊張が走る。
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