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幸いアズマの力はずば抜けていたので、予想よりもスムーズに魔王城の近くまで来ることができた。ようやく長い旅が終わると安堵していたのに、突拍子もない発言でぶち壊されるかもしれないなんて恐怖だ。
「いいじゃん。二人きりでちょっと話しよう」
「俺だってまだやることがあるから」
「あのさ、何度も言ってるけどシオンはなにもしなくてもいいから。俺が全部適当にやって魔王を倒すから、かっこいいところをしっかり見てくれたらいい」
「そういうわけにもいかないだろ」
人を魅了する美声で柔らかくシオンに話し掛けてくるので頷いてしまいそうだったが、アズマの言う通りにはできない理由があった。しかしそのことをここで話すわけにはいかないので、悟られないように追い返すしかない。
「魔王は強い。もっと気を引き締めて」
「大丈夫。俺のほうが強い」
「……ッ、もういい。とにかく出て行ってよ!」
アズマはまだブツブツと言っていたが、強引に扉の外に押しやって閉める。暫く外で気配がしたけれど、数分待っていると足音が消えていった。
ほっとしたシオンは全身から力を抜き、ずるずると壁に凭れながらその場に座り込んだ。微かに体が震えていた。
どうしてか。それは、アズマに対して大きな隠し事をしている罪悪感からだ。
「ごめん、アズマ」
項垂れながら謝罪をする。ほんとうならわがままなんていくらでもつきあってあげたかったし、もう少しアズマと一緒にいたかった。
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