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でも、シオンの願いが後々アズマを深く悲しませることを知っていた。
「落ち着け。大丈夫だから」
数え切れないほど繰り返してきた言葉を呪文のように呟きながら、首から下げていた紫色の宝石をぎゅっと手のひらで包み込む。シオンにとって命と同じぐらい大切なものだった。
託されたのは、アズマと共に旅する直前だ。師匠である魔導士から、この世界の真実を告げられると同時に渡された。
『魔王を倒すのは神の子でも聖剣でもない。お前だ、シオン』
宝石には複雑な光の魔法が幾重にも施され、長い年月を掛けて作りあげてきたものだと、魔法に通じる者ならすぐにわかった。数百年もの間、人間は魔物に脅かされて細々と生きてきたのだ。
神の子と呼ばれる者達もそれぞれの時代に何人も現れたが、現魔王の闇の力があまりに強すぎてしまい誰ひとりとして生きて帰らなかった。人類は敗北の歴史だけを積みあげ、いつか倒す時の為にと魔法力と人々の願いが宝玉に注がれてきた。
そしてようやく待ちに待った瞬間が訪れた。魔導士として最も優れているシオンに、世界の行く末を託すことになったというのだ。
『聖剣で魔王は倒せない。今までがそうであったからな』
『では、これは?』
『魔王を封印する為に必要なものだ』
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