魔王編1

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「そうか、俺……アズマのこと、好きだったんだ」 ゆっくりと瞳を開きながら、過去に気づくことのできなかった想いを口にした。やけに頭が重くて視界も定まらなかったので、何度か深呼吸をする。 しばらくしてようやく、汐音は自らに起きた異変に気づく。 「あれ? ここ、どこ」 見覚えのない場所に立っていた。 魔王を倒しに行く前日に訪れた宿屋でも、梓真の部屋でもなかったのだ。慌ててポケットに手を突っ込んで、スマートフォンを取り出し時刻を確認する。 「ちょ、っと待て。なんだ、これ」 まだ汐音の記憶は混乱していた。だが、徐々に過去と現実は区別がつくようになっていたので、表示された数字を穴が開きそうなほど眺める。 電車が遅れ、梓真の部屋を訪れたのは十八時すぎ。だが現在の時刻は十七時だ。 走って駅まで行けば、電車の遅延に巻き込まれることはないだろう。しかしこの時刻を認めるということは、汐音がなぜか過去に戻ってしまったという非現実な出来事を認めるしかなかった。 「時間が戻った、とか? 魔法の力で? タイムスリップ?」     
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