1840人が本棚に入れています
本棚に追加
梓真はどちらかというと人目を引く美しい造形の顔立ちで、すらりとした長身とほどよく鍛えあげられた体躯の持ち主だった。服のセンスも同級生達とは頭一つ分飛び抜けていて、清潔感のある白いジャケットを好んで着ていたせいか好感度も高い。
表情もクールかと思えば楽しそうに笑うので、男女問わず人気は高かった。しかし特定の相手は一切作らず、なぜか汐音とばかり行動していた。
先輩や後輩からラブレターを受け取ったり、告白されている場面に何度も遭遇したことがある。その度にヒヤヒヤさせられたが梓真の答えはいつも、恋愛には興味ないというものだった。
だから敢えて汐音も恋愛の話はしないように気を配っていた。そうやって、現在ふたり共三十路目前で浮いた話ひとつない。
いくら梓真の兄とはいえ、弟のことに口を出してくるなんて相当仲がいいなと思っていた。だが、汐音の勘違いだったことを知る。
「今までも何度か話はあった。その度に同じ理由で断られて」
「どんな理由ですか」
「お前と……遊んでいるほうが楽しいから、結婚はしないと言うんだ」
「えっ、お、俺ですか!?」
思わず大声をあげてしまい周囲の客から注目を浴びたが、そんなことなど構っていられなかった。なにも知らなかったのだ。
汐音のせいで、梓真は結婚をする気がないらしい。なんだか申し訳なさすぎて、謝りたい気分だった。
最初のコメントを投稿しよう!