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おもわず声に出して笑ってしまったが、きっとそうだと汐音は確信した。なぜなら、魔法という不可思議な術が使える世界のことを思い出したからだ。
時間を遡ったことはない。だけど、そういうことができてもおかしくない世界の人間だった。
「こういうの、前世っていうんだっけ。俺、異世界に転生したのかな」
呟いてみたが、謎はさっぱり解けなかった。アニメやゲームの中でならいくらでも見たことのある言葉だが、まさか口に出す日がくるとは。
前世も含めて持っている知識を総動員して考えたが、現在汐音が生きている世界に魔法はおろか、魔王や神に選ばれた存在などはいない。まったく異なる違う世界に生まれ変わったとしか思えなかった。
突然生まれ変わる前の記憶が蘇り過去に遡るなんて、説明のできないことばかりが起きている。どちらにしても汐音にとって都合がいいのは違いない。
「……ッ、とにかく梓真に連絡しないと」
まだ梓真は生きているはずだった。
混乱しきっていたが、やらなければいけないことだけは決まっていたのだ。指をスライドさせて番号を呼び出そうとする。
「ん? あれ、って」
その時偶然視界に入ってきた男性に見覚えがあった。足早に汐音に向かって歩いてくるのを、呆けたように口をぽかんと開けて眺める。
男のことを知っていて当然だった。なぜなら、ここはタイムスリップした世界だ。
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