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これから起きるすべての出来事が、一度汐音の身に起きたことだった。過去に戻ったことで未来に起きることも予測できる。
だが、声を出せないほど驚愕しているのは、以前は知らないと思っていた相手の顔を、実は汐音が知っていたからだった。
「おい、あんた。ちょっといいか」
「ま、ま、ままま、まっ!」
魔王。
かろうじて叫んでしまうのを押し留めたが、激しい震えが全身を駆け抜ける。
派手なロングスーツ姿で両手をポケットに突っ込み、近づき難いオーラを出した強面の男だったが、魔王と瓜二つの顔をしていたのだ。
前世でシオンが命を賭けて魔王を封印した。
なのにどうして、魔王が目の前にいるのか。このタイミングで遭遇してしまったのか。
警戒心を露わにしながら、ごくりと喉を慣らす。落ち着け、と必死に言い聞かせた。
神の子だったアズマも、現実世界の梓真も同じ顔をしていたのでとてと無関係とは思えない。梓真の死体がぼんやりと頭に浮かび、汐音は直感する。
蘇った魔王が神の子に復讐をした。梓真はこの男に殺されたのではないかと。
「おかしなことを聞くが、魔王を知っているか?」
「えっ、と……」
神妙な表情でとんでもないことを尋ねてきた男に対して、汐音は頬をひきつらせてしまう。以前もまったく同じことを聞かれたが、変な人だと察したので曖昧に誤魔化している。
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