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時間が巻き戻りやり直した今なら、違うことを言える。なぜなら、汐音は記憶を取り戻し魔王という存在を知っているからだ。
慎重に答えたほうがいい。必死に頭の中で、一度は起きた過去の出来事を蘇らせる。
魔王のことを聞かれた後に道を尋ねられたので丁寧に教えた。そのせいで予定した時刻の電車に乗れず、遅延に巻き込まれている。
今になって考えてみれば、その場で話をしなければ梓真にも会えていたかもしれない。一度起きたことをものすごいはやさで思い返し、ここで勝負に出るべきだと汐音は判断した。
「魔王って、どこかの店の名前ですか? なんだか怪しそうな雰囲気ですけど、居酒屋みたいですね。ちょっと興味あります。俺、お酒はあまり強くないですけど……」
魔王という言葉が、前世に関わることであるのは間違いなかった。ならば、関心を見せる素振りをしてなにか情報を得られないかと思ったのだ。
内心を悟られないように普段よりペラペラ喋り、汐音はぎこちない笑顔を作る。すると魔王からの視線の鋭さが、険しくなった。
「そうか。お前、面白い奴だな」
「はは……そうですか?」
「まぁいい、今のは聞かなかったことにしてくれ。ところで、俺はここに行きたいのだが、どうやって行けばいいか知らないか」
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